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2018/07/19
なぜフランス人はイギリス人のことを「ローストビーフ」と呼ぶのかを知ろうとして書き始めたのですが、どんどん脱線しております。

シリーズ記事 【嫌いな国の人を何に喩えるか目次へ
その9


前回の記事「イギリスとフランスが犬猿の仲だった長い歴史 」を書くために調べていたら、少し気になった書籍に出会いました。

スティーヴン・クラークStephen Clarke) というイギリス人ライターが書いた本です。フランス語の題名は『1000 ans de mésentente cordiale』。

英仏の国旗があって、「千年(1000 ans)」にわたる「不調和(mésentente)」だから、英仏間にあった千年の不仲について書いてあるのだろうと想像できます。でも、「不調和」には文字を大きくした形容詞「CORDIALE」がついている。

cordialとは、真心がこもった、誠実な、という意味があるのですが、ここでは反語的に使っていて、「心の底からの」不協和音という意味なのでしょうか?

彼は英語で書いているので、オリジナルの英語版でタイトルがなんとなっているのか調べてみました。左がフランス語バージョンで、右が英語バージョン。


1000 ans de mésentente cordiale

1000 Years of Annoying the French

仏語バージョンの方では、下に「ローストビーフから見た英仏の歴史」と説明がついています。

英語バージョンのタイトルは、俺たちイギリス人がフランス人をイラつかせた千年の歴史、のように私は受け取りましたが、どうなのでしょう?


イギリス人にとって、Merde(糞)はフランスの象徴

スティーヴン・クラークというライターを知らなかったのですが、フランスやフランス人について、英語と仏語訳でたくさんの本を出しているのでした。

英語版の著書の題名を見ると、そんなことをフランス人に言ってしまって大丈夫なの? と思ってしまうので気になりました。

Merde(糞)」というフランス語の単語がお気に召しているようで、それを何冊もの英語版のタイトルで使っているのです。

Stephen Clarkeの著書を検索

「結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻の周りはクソだらけ」なんていう、有名な啖呵売(タンカバイ)の口上があったけ...。



スティーヴン・クラークが特別に「メルド」という単語を取り上げたわけではなくて、イギリスではフランスらしさを表すものとして、バゲットやベレー帽の他に、このメルドもあるようなのでした。

ともかく、それだけ彼は糞まみれが好きなのに、フランス語の翻訳本では、「メルド」を使ったタイトルの本は一度も出していないですね。

フランス人読者に対しては、メルド=フランスとするのは憚られたからでしょうか? フランス人もよく「メルド」という下品な言葉を使いますが(悔しいときに「くそ~!」と言ったりする)、それがフランスの姿とはしていないわけですから。


イギリス人の忖度そんたく

かなり前のことですが、フランスで友人たちとおしゃべりしていたとき、「フランスの、ここが気に入らない」と話したら、「フランスが気に入らないなら、日本に帰れば良いじゃない」と言われて、少なからずショックを受けたことがありました。考えてみれば当然のことを言われたわけです。

でも、日本には「外国人による日本語弁論大会」というのがあって、外国人たちが日本人のことをこき下ろしていたのです。それで、日本人は外国人から批判されるのが好きなのか、外からの批判を素直に受け止めて成長する国民なのだろうと思っていました。

でも、日本も変わったのですね。

それで書いたのが、この記事:
ちょっと怖いな... 最近の日本礼賛ブーム 2015/03/01

日本では、外国人に日本のことを褒めさせるのが流行っていると感じた後、日本人女性と結婚しているイギリス人に出会いました。東京で開かれた会合に参加した後に夕食をして少し話したのですが、何となく彼は変だと思ったのです。

日本語が流暢なそのイギリス人は、口癖のように「日本は素晴らしいです!」と繰り返したのです。その場で私たちが話していることとは全く関係ないし、誰も彼が「素晴らしい」と褒めていることには耳もかしていなかったのに、彼は30分おきくらいにその言葉を繰り返していました。

そう言って日本人をおだて上げていないと、彼は日本では仕事できないからなのだろうと思って、気の毒になりました。


それで、フランスとフランス人についてしか書いていないライターのスティーヴン・クラークは、どういう風に書いているのか気になったのです。

最近のフランス人たちは、昔に比べるとフランスに対する自画自賛の考え方が薄れてきたと感じます。経済は低迷しているし、しばらく優秀な政治家も出てきていないので、このままではフランスは悪くなるばかりだ、と考えるフランスの友人が多くなってきました。

とすると、同じような問題を抱えた日本では、日本礼賛ブームになったのとは逆に、フランスでは外国人に貶されると痛快に感じるようになったのかもしれない。

スティーヴン・クラークが、フランスのことを良く言っているのか、悪く言っているのかを知るには、彼の著書を1冊でも買って読んでみれば良いのですが、イギリス人がフランスのことをどう言っているのかに全く興味がないので、私は読む気にはならない。

それで、インターネットでどう語られているのかを少し見てみました。


フランス語の翻訳版のタイトルが、原作と違いすぎる

スティーヴン・クラークのフランス語版には翻訳者の名前があるので、彼はフランス語では書いていないもよう。翻訳者のアドバイスなのか、彼自身が気をつかっているのか、英語のタイトルとフランス語のタイトルが余りにも違うのが興味深い。

フランス人を怒らせないように気を使っているのではないでしょうか?

フランス語版
Français, je vous haime
英語版

Talk to the Snail: Ten Commandments for Understanding the French

英語のタイトルでは、イギリス人がフランス人をバカにするときの呼び名の「蛙野郎」と出してきているので、フランス人をストレートに貶しているのだろうな、と想像します。

でも、フランス語のタイトルは全く違います。

「フランス人たち」と呼びかけて、そのあとで「私はあなた方を...」と続いています。『Français, je vous haime』をちらりと見たとき、動詞らしき「haimer」は存在しないので、「haïr(憎む)」をもじったのだろうと思って、「あなた方を憎んでいます」なのかと思ってしまいました。

でも、たぶん「aimer(愛する)」の頭に「h」を付けてみたのではないでしょうかね? フランス人はHを発音しないわけですから、耳で聞けば同じになる。だとすると、「あなた方を愛しています」になる。フランス語版の本の紹介でも、イギリス人はフランス人を馬鹿にするけれど、彼らのことを本当に好きなのだ、と書いてありました。


デビュー作のタイトルも...

スティーヴン・クラークが作家としてでデビューしたのは、2005年に自費出版して、イギリスでベストセラーになった下の作品。ノンフィクションかと思ったら、彼がパリにやって来たときの体験をもとにした小説なのだそう。

彼の作品としては唯一、これは日本語訳が出版されていました。3か国語のタイトルを並べてみますが、全く違うのですよね。

日本語版
英語版
仏語版

英語のタイトルをそのまま訳せば、「糞まみれの1年」のような感じでしょう? 日本語の題名は、英語で使っている「MERDE(糞)」を活かして、それがフランスを表すことを出す苦労をしていて、タイトルに「くそったれ」と付けていますね。

糞という単語を使ったのは、パリには犬の糞がたくさんあると作品の中でも書いているそうなので、それから来ているのかもしれない。左足で踏むと縁起が良いなんて言われていたのですけど、最近はパリ市も努力して、犬の糞はかなり見かけなくなりましたけど。

フランス語の題名の方は、糞(メルド)を削除してしまって、イギリス国歌の「God Save the Queen」 をもじって『God save la France』にしている。でも、犬が道路を歩いて、イギリス国旗を付けた運動靴がそれを踏みつけようとしている絵に糞のイメージは残したようです。


読んだフランス人のコメントを読むと、面白いことが書いてあると思ったのに、ちっとも笑わせられなかった、などというのもありました。フランスを痛快に貶して笑わせる、という域にまでは達していないのではないかと感じました。イギリスとフランスのユーモアには、かなり開きがあるのですよね。

くそったれ、美しきパリの12か月』を読んだ日本人には、ますますフランスが好きになったと書いている人もいたので、貶してばかりいるというわけでもないのでしょう。

誰も聞いていないのに「日本は素晴らしいです!」と繰り返していたイギリス人を見たときにも違和感を感じましたが、スティーヴン・クラークも、正面切ってモノを言わないのがイギリス人なのかな?

前回の記事で、フランス人はイギリス人のことを偽善家だと感じるというのを書きましたけれど、そういう違和感が両国にあるのかもしれない。

A Year in the Merde』というタイトルだった本を『God save la France』にしてしまったのなんかは、私でも鳥肌がたつけれど...。

それにしても、どうしてこんなに英語と仏語で意味が違う題名を付け、しかも表紙に使う絵も変えているのだろう?

フランスのアマゾンサイトに入っているコメントを見たら、英語版を読んだ人が、こちらも読んでみようと思って注文したら、フランス語への翻訳版だったと初めて分かり、「詐欺だ!」と怒っている人がいました。本屋で立ち読みしなかったら、そうなる可能性はありますね。


似たような題の本があった...

『A Year in the Merde』というタイトル。どこかで聞いたことがあると思ったら、同じくフランスに住んだイギリス人のピーター・メイル(Peter Mayle 1939~2018年)のベストセラー『南仏プロヴァンスの12か月』でした。このベストセラーの原題は『A Year in Provence 』だったのです。

「プロヴァンス」を「糞(メルド)」というフランス語に置き換えただけではないですか?

ピーター・メイルが著書の題名に「Provence」を何度も使っていたのと同じに、スティーヴン・クラークは「Merde」をトレードマークにしたのかな?...

南仏プロヴァンスの12か月

A Year in Provence 

この『南仏プロヴァンスの12か月』を、ずっとピーター・メイルはフランス語版を出すのを拒否していたけれど、余りにも有名になったので、ついにフランス語版を出版する許可を出しました。そうしたら、それを読んだご近所の人たちから総スカンをくって、彼は引っ越したと聞きました。

彼は文章を書く才能が優れていますが、私が読んだ時は、かなりでっち上げのお話しが入っているだろうと感じたので、そういう結末はありうるだろうと思いました。

日本でもかなり有名だったあのベストセラーが出たのは、もう30年近くも前でしたか。

ピーター・メイルは、今年の1月に亡くなっていたのを知りました。
Comme le temps passe...


続く

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ブログ内リンク:
ちょっと怖いな... 最近の日本礼賛ブーム 2015/03/01
フランスでは「13日の金曜日」はラッキーな日 2007/04/13 Merdeについて
海の向こうにある国に憧れるものなのか? 2006/10/12
★ 目次: 文学者・哲学者、映画・ドキュメンタリー

外部リンク:
☆ Wikipedia: メルド (フランス語)
イギリス人は好きだなぁ  『くそったれ、美しきパリの12か月』
【shithole】「肥溜め(こえだめ)・便所」トランプ大統領人種差別発言de英会話・スラング・略語の意味や使い方



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