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2021/10/14
「美味しい」というときに使う例え方は、日本とフランスで少し違うと感じています。

1つ目に思うのは、子どもの頃に食べた懐かしい味について、日本では「おふくろの味」と呼ぶのに対して、フランスでは祖母が作ってくれた料理を持ち出すことです。ひと世代違うわけですが、それ以外にも違いがあるのだろうか?... 前々から気になっていたことなので、少し調べてみました。


日本では「おふくろの味」

日本では懐かしくなる料理を「おふくろの味」と言いますよね? お母さんが作ってくれていた料理を再現できるレシピ本も出版されていました。

  

お母さんが料理上手だったかどうかは家庭によって違うでしょうが、それでも子どもの時に覚えた味が最も良いと感じることはあり得ると思います。

「祖母の味」とは言わないのかなと思って探してみると、少し出てきました。

  


フランスでは「祖母の料理」「祖母のレシピ」

子どもの頃に食べたものを懐かしむのはフランスでも同じです。というか、フランス人の方が強いのだろうと思いました。日本で発行されていた書籍は上に挙げたくらいですが、フランスの方は数えきれないほどあるのです。

祖母(grand-mère)、お婆ちゃん(mamie)をキーワードにして料理の本を検索して出てきたものを並べようと思ったのですが、パソコンの画面が埋まってしまうほどあるので、ほんの少し入れてみるだけにしました。

  

フランスのアマゾンで「cuisine de grand-mère」を検索した結果

もちろん、YouTubeでもお婆さんの料理をキーワードにして検索するとたくさん出てきます(こちら)。


出版されている本の中で最も多かったのは郷土料理のレシピ本でした。

郷土料理の本を出版するなら、どんなタイトルにするかを考える必要はなく、ただ「祖母(grand-mère)」の文字と地方名を入れておけば良いのだろう、とさえ感じました。

フランスでは母親の料理を紹介するレシピ本はないのかと探してみました。

検索したら、少し出てきました。ところが、料理をメモするためのノートばかりなのでした。

ママのレシピ
Les Recettes De Maman:
100 Fiches à Remplir avec
vos recettes de famille
母から娘へのレシピ
20 Recettes Cuisine Mère-Fille:
Carnet Recettes à compléter,
recettes a partager mère-fille

母親が作る美味しい料理を紹介する本を出したら、フランスでは売れないのでしょうかね...。



フランスの「お婆ちゃんの料理」とは?

フランスに友人付き合いする人ができた時代から、「祖母の料理」という言い方は耳にしていたように思います。でも友人の母親たちは美味しい料理を作るなと感心していました。フランス料理は美味しいと言うけれど、家庭で出される料理がこのレベルに達しているからなのだ、と私は結論していました。

最近では、美味しい料理を作る人が本当に少なくなったと感じています。簡単に料理できる冷凍食品なんかを人を招待した時でさえも使ったりもしているのですから。フランスが美食の国だなんて言って欲しくない、とさえ思ってしまう。


祖母とはいつの時代の人?

昔の友人たちの母親が今いうところに「お祖母さん」で、彼女たちが作っていたのが「祖母の料理」になるのかな?... あるいは、もっと昔まで遡ってお婆さんが美味しい料理を作っていたと言うのだろうか?

フランスで女性解放が進んだのは1970年代から。その後は夫婦共稼ぎが進み、主婦は毎日の料理に長い時間をかけられなくなりました。従って、すごく美味しい料理を作ってくれたと子どもが思い出すのは、1990年以前にいた専業主婦たちだったはず。

お婆さんの時代とは、ガスも電気も使わなかった時代の料理?

昔の家庭にあった台所がどうだったかを紹介するフランスのサイトがありました。筆者が子どもの頃に祖父母の家に行くと、台所のコンロは夏でも火が入ったままで、ヤカンから湯気が立っていた。暖炉にも鍋を吊り下げて料理する道具もあった。野菜スープやポトフや鶏の丸ごと煮込み料理などをコトコトと料理する臭いが漂っていた、などと書いてあります。

薪で加熱するコンロ



なぜ祖母の料理が好まれるのかを解説したフランスのサイトがありました。

それによると、今日お婆さんの料理というのは、1920年代か1930年代生まれの女性を指すとしていました。90歳から100歳くらいの人たちとなりますね。

その人たちが作る料理というのではなくて、彼女たちが料理をしていた時代に作っていた料理というわけですよね。私が料理が上手だなと思ったフランス女性たちも、今も生きていたらそのくらいの年齢のはず。


 祖母の料理が好かれる理由

次のことが挙げられていました。

① 幼い頃を思い出す料理
オーブンで時間をかけて料理するときに漂ってくる臭い。気取った料理ではないが美味しい。マルセル・プルーストが長編小説『失われた時を求めて』の中で、マドレーヌをお茶に浸して食べたら幼少時代の思い出が鮮明に蘇ったと語ったことと同じ。

② 流行には左右されず、ボリュームのある料理
元気にさせ、何回でもおかわりできる量で作られた郷土料理。

③ 愛情と尊重を感じさせる食材
祖父母の時代に巨大スーパーなどはなく、新鮮で、加工されていない材料を使っていた。朝市で食材を選んだり、自分で家庭菜園を持っていることも多かった。従って、シンプルな料理でも深い味わいがあった。

④ 遺産として残る料理
この時代の女性たちは専業主婦が殆どで、料理にも時間をかけていた。それで、彼女たちが作っていたのは本物の料理であると見做される。

こうして並べてみると、現代とは大きく違うというのが見えてきます。

今でも朝市は賑わっているし、家庭菜園を作っている人も多いです。でも、夫婦共稼ぎだと、土曜日にスーパーで買い物をするのが普通のパターンになっていますね。日曜日には商店が閉まっているので。

それと、お婆さんの料理にはボリュームがあったというのが面白い。現代人は太らないようにと、たくさん食べるのは控えますから。



 フランスでは、なぜ母ではなく祖母の料理なのか?

これが不思議なのです。フランスでも、料理は母から娘に受け継がれると言われるのですから。

素晴らしい料理を作る母親はたくさんいたはず。それなのに「おふくろの味」とは言わないわけです。

ところが、名字に「Mère(母)」と付けた名前で歴史に残っている女性の料理人は何人もいます。「Mères lyonnaises(リヨンの母親たち)」という言葉も有名です。

Clotilde Bizolon sert la soupe aux poilus Auberge de la mere blanc 

母親の経営する人気レストランをさらに発展させた有名シェフはたくさんいます。そんなシェフにインタビューしているテレビ番組を見ていたら、ずっとシェフは母親の料理について語りながら料理を作って見せていたのに、ナレーションになったら「祖母の料理」という言葉にして語られたのでした。

昔の素晴らしい料理と表現するには、フランスでは「祖母の料理」になるのかなと思いました。現在活躍しているシェフたちの母親の年代は、上に書いた「祖母の料理」という時の祖母の世代に相当しますから。



 日本の「おふくろの味」、フランスの「祖母の料理」で
  取り上げられるのは、どんな料理?


ここで大きな違いが出てきました!

フランスの「祖母の料理」は?

お婆ちゃん(mamie)の料理の代表的なものを15づつ、写真入りで紹介しているサイトがあります。レシピも載せています。

☆ 前菜: Top 15 des entrées de mamie
今では肉屋で買うのが普通のパテやテリーヌやリエットも作ってしまいますか。

☆ メイン料理: TOP 15 des meilleurs plats de mamie
色々な肉を使った料理が並んでいます。今でも海産物は高価です。ブルゴーニュの年配の人が、サーモンなんかはクリスマスのご馳走くらいでしか食べなかったと言っていました。

☆ デザート: TOP 15 des meilleurs desserts de mamie
☆ ケーキ:Top 15 des meilleurs gâteaux de mamie
デザートはお婆さんの腕の見せ所だったでしょうね。子供たちも喜んだでしょうし。毎日のように作っていただろうと思います。今の人たちは本当に作らない!

まず、ちゃんと手間をかけている料理ですね。写真を眺めてみると、久しぶりに食べたいなと思う料理が多かったです。私にとってのフランスは食道楽のブルゴーニュなので、今でもこういう料理を作っている友人たちはいるので、私にとっては珍しい料理ではないのですが。


日本の「おふくろの味」は?

私の母は料理が下手なわけではなかったのですが、また食べてみたいなと懐かしくなる料理は何も思い浮かびません。思い出すとすれば、一緒に作ったシュークリームなど。でも、これは「おふくろの味」とは言えない。

小学生の時、夏休みに預けられていた父の姉の家で出されたキュウリには思い出があります。家庭菜園で育ったもぎたてのキュウリを2つに割って、それに味噌をのせて食べたのが美味しいので驚いたのでした。育ち過ぎたような太さだったし、日向で生暖かくなっているキュウリでしたが、こんなに美味しいものだったのか?! と驚いたのです。つまり、東京で育った私は、今と変わらない味のない野菜を食べていたのでしょうね。

たぶん、田舎育ちの人たちには「おふくろの味」が記憶に焼き付いているのではないかと思います。今では料亭にでも行かないと食べられないような料理もあったのではないですか?

思いついたのはイナゴの佃煮。
簡単に買えるものが売っているとは思わなかった ⇒

なぜこれが頭に浮かんだかと言うと、イナゴを実家にいた頃には食べていたという東京に住む女性がいたからです。

いなごの料理は手間がかかり、捕まえてから糞を出させるために何も食べさせないでおいておく必要があるとのこと。それって、エスカルゴを捕まえてから食べるまでにする手順と同じだ、と面白く思ったのでした。

本当なのかと疑ったわけではありませんが、イナゴを佃煮にするまでの手順を紹介しているブログを読んでみました:
イナゴの佃煮作りを母親から教わる

食糧難の時代にイナゴを食べていたのだそう。それで分かった。フランスに来た日本人(田舎出身で東京住まいの男性)が、フランス人がエスカルゴを食べるのは、戦時中に食べ物がなかった時代に始まったのだろう、と私に言ったのでした。古代ローマ人もエスカルゴを好んでいたので、そんな経緯ではないと答えたのですが、納得してもらえなかった様子。

ともかく、日本人が「おふくろの味」と言う時も、今では手間をかけて作ったりしない料理のことだろうと想像していたのですが、全く違うらしいのでした!

おふくろの味のランキングがあったので眺めてみたら、トップクラスは、肉じゃが、みそ汁、カレーライス、鶏のから揚げ。それに続いて、ポテトサラダ、卵焼き、煮魚、おにぎり、ハンバーグなど。

男性が彼女か妻に作って欲しいという料理のランキングでは、カレー、ハンバーグ、肉じゃが、味噌汁、オムライスの順でした。

こんなのはご馳走にはならないし、私でも作っていると言いたくなる。

ランキングが下がると、筑前煮、きんぴらごぼう、うの花などがチラホラ入ってきますが、50位まで下がっても、フランスでいう「祖母の料理」のように今の人たちはなかなか自分では作らない料理名がほとんど入っていません。

「おふくろの味」と名付けたレトルト食品まで売られているので驚きました。



レトルトで満足するということは、それほど母親の料理は特別だったという記憶がないからなのかな?... でも、私は「おふくろの味」と言ったら、こういう料理をイメージしていたのでした。

フランス人が祖母の料理を評価しているといっても、「お婆ちゃん料理」などとしてレトルト食品を売ろうともしないのではないと思います。祖母の料理は伝統的な本物の味なわけなので、全くそぐわないはずですから。



 日本とフランスの違い


まず気になるのは、日本では懐かしい料理にお婆さんを持ち出さないこと。たまには「おばあちゃんの料理」として紹介されることもありますが、例外的にお料理上手な女性を紹介しているように感じます。

なぜなのだろう? いま百歳くらいの年齢になる女性たちの時代の日本では、そんなに美味しい料理を作っていなかったのだろうか?...

もう1つ考えられるのは、日本のお婆さんは、まず自分があっさりとしたものしか食べたくなくなるので、孫たちに美味しいものを食べさせようとする人は少ないのではないか、ということ。

肉食のフランスでは、お年寄りでも食欲旺盛です。平均年齢は70歳を超えているだろうと思うサークルでの昼食風景をブログに書いていました:


フランス人って、どうしてこんなに食べられるのだろう?... 【2】

自分の食が細ってきていたら、子どもたちの家族が遊びに来たって大した料理は作る気がしないですよね。私の母は50歳を過ぎた頃から料理の質が落ち始めたので、遊びに行っても食事は期待しなくなりました。

フランスのお婆さんたちは、子どもたちに遊びに来て欲しいから料理で釣ろうとしているようにも見えます。腕を振るいますので!

もう1つ思ったのは、「おふくろの味」という言い方がポイントだということ。懐かしくなるのは、お母さんの味付けが好きだったということなのでしょうね。塩加減が良いとか、ピリッとした味が良いとか...。「おふくろの味」とは言うけれど、「お母さんの料理」とは殆ど言わないようなので。



上にフランスの「祖母の料理」にはどんなものがあるかのリンクを入れたのですが、レシピを紹介しているので、今の人でも作れるようなものを選んでいたように感じました。それで、私がイメージするお婆さんが作っていた料理を動画で探してみました。

野ウサギの赤ワイン煮込み(Civet de lièvre tourangeau)というトゥーレーヌ地方の郷土料理をお婆さんが調理している動画を入れておきます。1980年に放映されたテレビ番組。薪のコンロを使っていて、6人分の料理だそうです。

材料はシンプル。1.5Kgの野ウサギの肉と血、ラード、玉葱、赤ワイン、ニンニク、ハーブ。


Recette : Le civet de lièvre à l'ancienne | Archive INA

野兎は10年くらい前に友人が料理したのを1度だけ食べたことがあったのですが、この料理だったのだろうなと思いました。

取材した男性の右手に座ったのがお孫さん。この料理を作ってみたいと言っていますが、野ウサギはなかなかハンティングできるほどにはいなくなっているのだ、とハンターの義理の息子が言っています。

かなり訛りが強いですね。舞台は、フランス中部のトゥール市(Tours)から10 Kmくらいにある村でした。トゥールというと、フランスで最も美しいフランス語を話すと言われているのですけど...。

内部リンク:
★ シリーズ記事目次: フランスの専業主婦の実態
★ 目次: ホームパーティー いろいろ

情報:
「おふくろの味と聞いて思い浮かべる料理ランキング」発表! 3位は卵焼き、2位はみそ汁、1位は…おふくろの味といえばやっぱりあれ!
社会人に聞いた、あなたの「おふくろ」の味ってなに? 人気は「味噌汁」「ポテサラ」「カレー」
『おふくろの味』で思い浮かべる料理ランキング
おふくろの味と聞いて思い浮かべる料理ランキング - Gooランキング
男が思う「おふくろの味」って何?2位は味噌汁、1位はみんな大好きなアレ!
☆ 毎日食べたくなる“おふくろの味”を伝授!初心者さん向け【家庭料理の基本レシピ13品】
おふくろの味 - Wikipedia
Pourquoi est-on fan de la cuisine de nos grands-mères ?
Des cuisines de nos grand-mères à nos cuisines d'aujourd'hui
Mère (restauration) - Wikipedia
日本語には「美味しい」と言いたい時の言葉が少ない
「美味しい」の意味を持つフランス語、いろいろ


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