2005/09/20
10年以上も昔のこと。勤め先のフランス人上司のお友達で、南フランスでワイン醸造をしている農家のマダムが来日したとき、東京観光のお相手をしたことがあります。
このとき、びっくしてしまったことがありました。
上野の国立博物館に行くと、展示されていた工芸品がいたくお気に召した様子。
それで、こう私におっしゃる。
「こういう骨董品を売っているところに連れて行ってください」
なんということを言うの?! こういう芸術作品は博物館にあるものであって、買えるものではない、と思ってしまったのです。
デパートに行けば漆器などがあると言うと、そういうのではなくて、アンティークが欲しいのだとおっしゃる。
今でこそ日本でもアンティークはブームになってきましたが、当時の私はアンティーク・ショップが東京のどこにあるかなんて知りませんでした。
その後、私もアンティークに興味を持つようになって、フランスであちこちの骨董品店を覗くのを楽しみにするようになりました。
すると分かってきたのが、このときのマダムの気持ち。
確かにフランスでは、博物館に入れたら良いような骨董品をたくさん売っているのです。
本当に、信じられないほどすごいものを売っています!
価値がある骨董品は家にはない庶民階級でも、古いものをコレクションしている人が多いと感じます。
なんでもかんでもため込んでいる、とさえ言いたくなります!
古いものが家の中にあるとくつろぐのでしょうか?...
■ フランスでは伝統工芸が消えている
それだから、よけいに不思議に思ってしまうのです。
フランスでは、昔の工芸品は、日本とは比較にならないくらい現代に伝えられていないのです。
日本だと、昔ながらの製法による着物とか漆器とか陶磁器とかがあります。高い金額を払えば、蒔絵など、すばらしいものも手に入る。
ところが、フランスでは、それに並ぶような工芸品が非常に少ないと思います。高価なタペストリーなども売っていますが、博物館で見るのとは雲泥の差の出来合いのものしかありません。
もちろん、伝統は保存されています。国宝級の文化財を保存するためには専門家がいます。
例えば、ヴェルサイユ宮殿にあるルイ14世時代につくられた噴水などは、地下にある配水管を直すにも、今の技術では修復せずに、当時のやり方で修復しているというこだわりようなのです。
宮殿のカーテンの小さな部品にしても、ちゃんと当時のようなものを作っている。膨大なお金がかかるそうですが。
でも、こうした昔の技術を活かした工芸品を売っているのは、普通ではお目にかかれません。
最近の人は昔のように働かなくなった。税金と社会保険が高いフランスでは、家内工業的な産業が生き残れないというのもあると思います。
高額を出して工芸品を買える人は、本物のアンティークを買うからでもあるのでしょう。
昔ながらの技術で作られた工芸品に大金を払う人が少ないようにも感じます。
■ ワイン祭りで出会ったおじいさん
昨日書いた日記(ワイン祭り)では、珍しく昔ながらの工芸品を売っているお年寄りがいました。
木の小枝の皮を割いてつくったヒゴで籠を編んで素朴な作品です。
他では見たことがない作品で珍しいので、おじいさんの作業を眺めながら、長いことおしゃべりをしてしまいました。
ハシバミ(ヘーゲルナッツ)がなる木の小枝の皮を割いてヒゴを作ります。
ハシバミは、このあたりでは簡単に見つかる木です。その木の皮を剥いで籠を作るのは、昔は農繁期に、どこの農家でもやっていたことなのだそうです。
おじいさんも小さな子どものうちから木を探しに行ったりして、自然に覚えた技術なのだと言っていました。
膝でヒゴを曲げて編んでいきます。
素朴な作品です。出来具合にはムラがあります。でも、そういうのって良いと思うのです。
籐細工よりも軽いのだと自慢していました。
木で作っているのに、確かに軽い。
樹皮の部分を剥いだ部分と、その中の部分が白いので、色のコントラストが出てきれいだと思いました。
丈夫で、50年くらいは問題なく持つのだそうです。東南アジアさんの安い籠がたくさん売られているけれど、それとは全然違うのだと強調。
ちょっと変わった色のがあったので聞くと、実験のために柳の細い枝で作ってみたという籠でした。
「やってみたけど、全然よくない」と言い切ります。それでも、せっかく作ったので売っていました。
■ こういう伝統工芸は守らなければ....
このおじいさんから、私は下の写真に写っている2点を買いました。
左は、パーティのときにチーズを並べるのにきれいだと思って気に入りました。
右の籠は、自慢の作品だと言って、奥からだしてきて見せてくれたものです。皿と同じような柄なので、合わせて欲しくなりました。
直径は40センチくらい。20時間かけて作るので高いのだ(約5,000円でした)、と、申し訳なさそうに説明していました。
この籠は、中に容器を入れて花器に使うことにしました。チーズ皿を使わないときは、それを下に敷いておくときれい!
私が興味を持ったのが、とても嬉しそうでした。私が話し込んでいたら、人も寄ってきて、おしゃべりをする人も出てきました。
でも、私の他に誰か買った人がいるのかな?...
パリあたりで売ったら、都会の人には受けると思う。でも田舎のワイン祭りだったので、昔を懐かしがっておじいさんの作業を見ていた人が少しいるだけだったように感じました。
■ 日本なら藁細工というところでしょうか?
おじいさんの仕事は、日本の藁細工を思わせました。
日本でも、こうした伝統は廃れると心配されているけれど、それでも頑張っている人たちはかなりいます。私も東北に行ったときに、ゾウリ、雪靴、猫の籠などを買いました。
他の地方でも、高齢者の活動としてやっているのを視察しました。
でもフランスでは、こういう素朴な伝統工芸はめったに見かけません。
地方独特の工芸で見かけるのは、レースとか、ナイフとか、陶器とか、かなり限られていると思います。いづれにしても、高い値段で売れるとものであるのが条件なように思います。
籠は東南アジア産の安いものがたくさん出回っているので、おじいさんのような籠を作る人はいないのでしょう。
おじいさんに「後継者は?」と聞くと、誰もいないという返事。
こんな仕事は若い人は嫌う、と言います。
それでも、失業中の若者が習いに来たことがあるのだそうです。
青年人は、1日に籠の3つくらいは作れると思っていた。ところが、籠は3日かけて1つ作れる程度なのです!
それを知ったら、こんな仕事は覚えても仕方がないと、さっさとやめてしまったのだそうです。
このおじいさんが籠作りをやめたら、フランスでは誰か他に、昔はどの農家でももやっていたという、この伝統を伝える人がいるのでしょうか?...
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このとき、びっくしてしまったことがありました。
上野の国立博物館に行くと、展示されていた工芸品がいたくお気に召した様子。
それで、こう私におっしゃる。
「こういう骨董品を売っているところに連れて行ってください」
なんということを言うの?! こういう芸術作品は博物館にあるものであって、買えるものではない、と思ってしまったのです。
デパートに行けば漆器などがあると言うと、そういうのではなくて、アンティークが欲しいのだとおっしゃる。
今でこそ日本でもアンティークはブームになってきましたが、当時の私はアンティーク・ショップが東京のどこにあるかなんて知りませんでした。
その後、私もアンティークに興味を持つようになって、フランスであちこちの骨董品店を覗くのを楽しみにするようになりました。
すると分かってきたのが、このときのマダムの気持ち。
確かにフランスでは、博物館に入れたら良いような骨董品をたくさん売っているのです。
本当に、信じられないほどすごいものを売っています!
価値がある骨董品は家にはない庶民階級でも、古いものをコレクションしている人が多いと感じます。
なんでもかんでもため込んでいる、とさえ言いたくなります!
古いものが家の中にあるとくつろぐのでしょうか?...
■ フランスでは伝統工芸が消えている
それだから、よけいに不思議に思ってしまうのです。
フランスでは、昔の工芸品は、日本とは比較にならないくらい現代に伝えられていないのです。
日本だと、昔ながらの製法による着物とか漆器とか陶磁器とかがあります。高い金額を払えば、蒔絵など、すばらしいものも手に入る。
ところが、フランスでは、それに並ぶような工芸品が非常に少ないと思います。高価なタペストリーなども売っていますが、博物館で見るのとは雲泥の差の出来合いのものしかありません。
もちろん、伝統は保存されています。国宝級の文化財を保存するためには専門家がいます。
例えば、ヴェルサイユ宮殿にあるルイ14世時代につくられた噴水などは、地下にある配水管を直すにも、今の技術では修復せずに、当時のやり方で修復しているというこだわりようなのです。
宮殿のカーテンの小さな部品にしても、ちゃんと当時のようなものを作っている。膨大なお金がかかるそうですが。
でも、こうした昔の技術を活かした工芸品を売っているのは、普通ではお目にかかれません。
最近の人は昔のように働かなくなった。税金と社会保険が高いフランスでは、家内工業的な産業が生き残れないというのもあると思います。
高額を出して工芸品を買える人は、本物のアンティークを買うからでもあるのでしょう。
昔ながらの技術で作られた工芸品に大金を払う人が少ないようにも感じます。
■ ワイン祭りで出会ったおじいさん
昨日書いた日記(ワイン祭り)では、珍しく昔ながらの工芸品を売っているお年寄りがいました。
木の小枝の皮を割いてつくったヒゴで籠を編んで素朴な作品です。
他では見たことがない作品で珍しいので、おじいさんの作業を眺めながら、長いことおしゃべりをしてしまいました。
ハシバミ(ヘーゲルナッツ)がなる木の小枝の皮を割いてヒゴを作ります。
ハシバミは、このあたりでは簡単に見つかる木です。その木の皮を剥いで籠を作るのは、昔は農繁期に、どこの農家でもやっていたことなのだそうです。
おじいさんも小さな子どものうちから木を探しに行ったりして、自然に覚えた技術なのだと言っていました。
膝でヒゴを曲げて編んでいきます。
素朴な作品です。出来具合にはムラがあります。でも、そういうのって良いと思うのです。
籐細工よりも軽いのだと自慢していました。
木で作っているのに、確かに軽い。
樹皮の部分を剥いだ部分と、その中の部分が白いので、色のコントラストが出てきれいだと思いました。
丈夫で、50年くらいは問題なく持つのだそうです。東南アジアさんの安い籠がたくさん売られているけれど、それとは全然違うのだと強調。
ちょっと変わった色のがあったので聞くと、実験のために柳の細い枝で作ってみたという籠でした。
「やってみたけど、全然よくない」と言い切ります。それでも、せっかく作ったので売っていました。
■ こういう伝統工芸は守らなければ....
このおじいさんから、私は下の写真に写っている2点を買いました。
左は、パーティのときにチーズを並べるのにきれいだと思って気に入りました。
右の籠は、自慢の作品だと言って、奥からだしてきて見せてくれたものです。皿と同じような柄なので、合わせて欲しくなりました。
直径は40センチくらい。20時間かけて作るので高いのだ(約5,000円でした)、と、申し訳なさそうに説明していました。
この籠は、中に容器を入れて花器に使うことにしました。チーズ皿を使わないときは、それを下に敷いておくときれい!
私が興味を持ったのが、とても嬉しそうでした。私が話し込んでいたら、人も寄ってきて、おしゃべりをする人も出てきました。
でも、私の他に誰か買った人がいるのかな?...
パリあたりで売ったら、都会の人には受けると思う。でも田舎のワイン祭りだったので、昔を懐かしがっておじいさんの作業を見ていた人が少しいるだけだったように感じました。
■ 日本なら藁細工というところでしょうか?
おじいさんの仕事は、日本の藁細工を思わせました。
日本でも、こうした伝統は廃れると心配されているけれど、それでも頑張っている人たちはかなりいます。私も東北に行ったときに、ゾウリ、雪靴、猫の籠などを買いました。
他の地方でも、高齢者の活動としてやっているのを視察しました。
でもフランスでは、こういう素朴な伝統工芸はめったに見かけません。
地方独特の工芸で見かけるのは、レースとか、ナイフとか、陶器とか、かなり限られていると思います。いづれにしても、高い値段で売れるとものであるのが条件なように思います。
籠は東南アジア産の安いものがたくさん出回っているので、おじいさんのような籠を作る人はいないのでしょう。
おじいさんに「後継者は?」と聞くと、誰もいないという返事。
こんな仕事は若い人は嫌う、と言います。
それでも、失業中の若者が習いに来たことがあるのだそうです。
青年人は、1日に籠の3つくらいは作れると思っていた。ところが、籠は3日かけて1つ作れる程度なのです!
それを知ったら、こんな仕事は覚えても仕方がないと、さっさとやめてしまったのだそうです。
このおじいさんが籠作りをやめたら、フランスでは誰か他に、昔はどの農家でももやっていたという、この伝統を伝える人がいるのでしょうか?...
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